ITエンジニアのキャリア開発のヒント

3「コミュニケーションは出会いと経験から」

こんにちは。株式会社オイコスの小田美奈子です。

今回のコラムでは、「ITエンジニアのキャリア開発」と題して、株式会社チェ
ンジビジョン代表取締役社長・平鍋健児さんに、自らの体験をもとにエンジニ
アとして身に付けるとよいスキルや考え方、求められるエンジニア像について
伺いました。

<平鍋 健児氏(Kenji Hiranabe)プロフィール>
株式会社チェンジビジョン代表取締役社長、株式会社永和システムマネジメン
ト副社長。
1989年東京大学工学部卒業後、3次元CAD、リアルタイムシステム、UMLエディ
タJUDEなどの開発を経て、オブジェクト指向技術、アジャイル型開発の実践す
る「見える化」コンサルタント。アジャイルプロセス協議会副会長、要求開発
アライアンス理事。
著書『ソフトウェア開発に役立つマインドマップ』、翻訳『アジャイルプロジ
ェクトマネジメント』、『リーンソフトウェア開発』など多数。
「ハート駆動型コミュニケーション」をモットーに、人に感動を与えられるコ
ンサルタントを目指している。福井県大野市在住。お酒と映画とJazzを愛する。

株式会社チェンジビジョン
http://www.change-vision.com/

平鍋健児さんのブログ「An Agile Way」
http://blogs.itmedia.co.jp/hiranabe

■ エンジニアに必要な「コミュニケーション力」

日頃から多くのエンジニアと交流されている平鍋さんに、エンジニアに身に付
けてほしいスキルや、求められているエンジニア像について伺いました。

【ソフトウェア開発では、技術はもちろん、プロジェクトマネジメントも大事
ですが、この2つが全てだという風潮が強いんですね。特に、日本だと組織の
中に、ISOなどのマネジメントのシステムを入れて回していく、そこにしっか
りとした技術を持っていればうまくいくように思われがちです。

でも、僕はこの2つではすっぽり抜けるものがあると思っていて、人間力、も
っと言うとコミュニケーションやモチベーションの部分、人の気持ちを理解す
ることが大事だと思っています。ソフトウェア開発で人の気持ちを理解するこ
とを抜いてしまったら、そもそも成り立たない。「ソーシャル工学」、人と人
との関係力学と言えると思います。相手を理解することや、どういう話し方を
するかなどは大きく、50%に近いのではないかと思っています。技術20%、マ
ネジメント30%位のイメージです(図1参照)。

コミュニケーションができる人をたくさん生まないと、ソフトウェア開発は回
らないですよね。わたしはこれを、プロジェクトファシリテーション(*1)
と呼んでいます。

《技術》《マネジメント》《コミュニケーション》の全部を包括する人が、
リーダーとして必要なんです。日本では、年齢が上がると、《技術》ができて、
《マネジメント》に異動して管理をして、となります。技術も分かり、マネジ
メントも分かって、人と話してその人をやる気にさせたりすることが大事です。

相手の問題は何かを見つけたり、その仕事をする動機を与えたり、「なぜあな
たはこの仕事をしているんですか?」といった仕事の核心部分の話ができる人。
モチベーションを引き出しながら、全体を前に進める力を持った人が求められ
ていると思います。】(平鍋氏、以下【】内同じ)

  <図1:ソフトウェア開発の要素>

   《技術》20%     《マネジメント》30%
<ソフトウェア工学>   <プロジェクトマネジメント>
----------------------------------------------------------------
  《コミュニケーション・モチベーション》50%
   <ソーシャル工学> 
   相手の理解
   プロジェクトファシリテーション

*1:プロジェクトファシリテーション
プロジェクトの現場を活性化し、モチベートし、協調関係を作るために必要な
技術。
http://www.objectclub.jp/community/pf/


■ コミュニケーションスキルを高めるには?

50%を占めるという《コミュニケーション》の部分、平鍋さん自身は、どのよ
うにしてそのスキルを高めていったのでしょうか。

【もともとは苦手なんです。技術が大好きで、技術はOK、負けないと思ってい
る時期がありました。でも、製品を売るとか、作ったものをお客様に使っても
らう場合、うまくいかない時に、「いいものを作ったのに売れないのは営業の
せい」とか、人のせいにしがちなところがあるんです。自分が愚痴を言うので
あれば、自分の世界で足りていないところ、ここがこうなればいいなとか、売
れたらいいなと思うなら、自分自身が変わってそこに行くべきだというのが持
論です。

コミュニケーションが重要と目覚めたのは、《技術》から出て、ソフトウェア
開発の全体を見た時に、技術だけだと価値が届かないことが分かった時です。
自分のモデルとなる人がいなかったので、自分の会社の中でどうやったらいい
のかを模索しました。
コミュニケーションは、ジャングル(笑)。これは経験によるところが大きい
です。

《技術》は本を読むと、ある程度できるのですが、《コミュニケーション》は、
本を読んだだけではできません。経験が必要です。人とたくさん会ったり、こ
の人すごいなと思う人と会うことで、この50%の力は身に付けられると思いま
す。

一人でものを作っている時はいいんですよ。自分のためにやっている時はいい。
それは日記みたいなものです。作ったものを誰かに届けて、人がそれを使って
嬉しいとか、それを使って自分の仕事が楽になったというようにするには、自
分がソーシャルな力をつけて、話をしながら思いを伝えること、思いを聞き取
ることです。】

コミュニケーション力を高めるには、経験が大事という平鍋さん。コミュニ
ケーションの「一回性」についてお話いただきました。


■ 感動は人生の「一回性」に関係している

【科学は再現性や正しさを求めています。未来を予測できることです。ただ、
コミュニケーション力の根底にあるものは、生の経験や感動という本来再現性
がないものなんですよ。人生の一回性(onceness=その人の人生の中で一回し
か起こらない)と強く関わっているんです。人生は一回しかない、現在あなた
が関わっているプロジェクトは一回しか起こらない、その中でいきいきと仕事
をしたい。

過去からヒントを得て、うまくいかせようとすることはできるけれど、いいプ
ロジェクト(=お客様から喜んでもらえたり、一緒にやってよかったと思える
プロジェクト)や、人生を豊かにしていくものは、再現性や普遍性とは違う一
回性のところにあります。経験と強く結びついている。感動とかコミュニケー
ションは、人生の一回性と関わっているのです。

キャリアは、定式化されたことを覚えていくのではなくて、感動して、経験し
て、理解しながら、自分の中でもやってよかったと思えることが大事。そうす
ることで、コミュニケーションやモチベーションが理解できて、人を含めたシ
ステムをうまく回せるリーダーシップが身についていきます。

《技術》や《マネジメント》という普遍性をめざした体系(熱が冷めたもの)
も大事なんですが、そればかりだと、自分は人生で本当は何をやりたかったの
か(熱い思い)を見失ってしまいます。経験が大事ということは言いたいです
ね。】

4「自ら変化を起こす」に続く・・・>


★ ITエンジニアのキャリア開発のヒント
3 「コミュニケーションは出会いと経験から」

平鍋さんのお話を元に、エンジニアのキャリア開発のヒントをお伝えします。
ここでの「キャリア開発」の定義は、「仕事を中心とした人生を、総合的・体
系的に発展・成長させていくこと」とします。

平鍋さんのメッセージは、【ソフトウェア開発でリーダーシップをとって、全
体をまとめている人は、必ずコミュニケーションができる。これを体系化する
ことは難しいが、基本的には経験が大事】というお話でした。

平鍋さん自身、《技術》だけだと価値が届かないと分かった時に、コミュニ
ケーションの重要性に目覚めたとのことです。営業や人にたくさん会う経験を
積むことで、コミュニケーション力を磨いていきました。
お客様や一緒に働くメンバー、または社外のコミュニティなどで、積極的に自
分の思いを伝えること、相手の思いを聞くことが、コミュニケーション力を高
める近道ですね。


今回の記事が、皆様のスキルアップを改めて考えるきっかけになると幸いです。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

株式会社オイコス メンター 小田美奈子 プロフィール
1968年生まれ。大学卒業後、食品メーカーで商品開発、情報提供サービス会社でリサーチ業務、契約社員の人事・採用業務、給与体系や就業規則の改定に携わる。1999年より化粧品メーカーのマーケティング部門にて、ユーザーへのグループインタビュー等、各種調査の企画・運営・報告業務に携わる。 2000年春、コーチングの考え方に出会い、「答えはその人の中にある」「その 人の能力や可能性を最大限に発揮するサポートをする」という考え方に魅力 を感じ、学び始める。(株式会社コーチ・トゥエンティワン及びCTIジャパン) 2003年より、特定非営利活動法人日本コーチ協会 東京チャプター(JCAT)の設立に参画し、現在は事務局幹事を務める。 2004年より株式会社日本マンパワーにてキャリアカウンセリングを学ぶ。 2005年に独立し、主に経営者・管理職を対象とした「事業計画の達成」「人材育成」をテーマとした One to oneコーチング、20~30代の会社員を対象とした「キャリア」をテーマとしたキャリアカウン セリング、コーチングやキャリアに関するセミナーや執筆を中心に活動している。